障害年金の壁 その1 「初診日証明書」

年金に関する基本的な決まりは、国民年金法や厚生年金保険法、あるいは共済年金各法といった法律で定められています。

障害年金についての法律の規定も、国民年金法で14ヵ条、厚生年金保険法では16ヵ条の規定が設けてあります(その他に「付則」もある)。

ところが、これらの条文に、文言としてはまったく出てこないのに、これがなければ年金の審査にも入ってくれない、という重要な文書があります。

それが初診日証明書(書類の標題としては、「受診状況等証明書」などと書かれていることが多い)です。

1.初診日主義 

我が国の障害年金は、その法律のいたるところに「初診日」が顔を出します。国民年金法では、いわく@「初診日において次の各号のいずれかに該当したもの云々」、いわくA「当該初診日の属する月の前々月までに被保険者期間があり云々」、いわくB「当該初診日から起算して1年6月を経過した日云々」と。

@は、障害年金をどの制度が支払うのか、それは、初診日当日に加入していた制度だよ、という規定に関係しています。

Aの初診日には、保険料を規定の月数分以上支払っているかどうかを判定するときの、被保険者期間を確定するための、言ってみれば、測量のポールのような役目をさせています。

最後のBは、原則として、初診日から1年6ヵ月経過しないと障害年金の請求は受け付けない、という規定に使われています。

このように、我が国の障害年金は、はっきり「初診日主義」をとっています。

2.初診日立証の困難さ

初診日主義の是非は別に考えるとして、我が国の障害年金は、初診日がいつであるかの立証責任は、もっぱら障害年金の請求者が負わなければならないのです。

ところが現実には、障害年金の請求ができるということを知るまでに、想像以上に時間がかかっているのも事実です。私が関わった事案でもっとも長かった例は、39年前の初診日というのがありました。

障害を負って間もなくに障害年金のことを知り、私に依頼してきて障害認定日を待って年金を請求する、というようなケースは、私の経験では皆無ではありませんが、むしろ例外に属します。

その原因はただ一つ、障害年金に関する情報がほとんど発信されていないから、と言い切ることができます。

そのために、障害年金の請求を思い立ったときには、すでにカルテが廃棄され(カルテの保存期限は5年)ていて、医師の証明が取れないケースがほとんどです。カルテは、実際には、きっちり5年で廃棄されることは多くありませんが、10年後ではかなり難かしくなり、20年経過したら、保存スペースに余裕がある大病院でも、先ず無理ではないでしょうか。

医師による証明が不可能の場合、代替措置もないことはないのですが、カルテが保存されていないほど時間が経ってしまうと、代わりの証明も不可能なことが多いのです。社会保険労務士がない知恵を絞るのはそんなときなのですが、歯が立たない事案がほとんどです。

3.政府は、障害年金を嫌うか

「神は真空を嫌い給う。」という、物理学上の古いことわざがあります。技術水準の低かった時代に、真空状態を作り出すことの困難さを言い表したものです。

現代の日本の障害年金に対する政府の態度は、まさに真空を嫌う神のごとくです。このことについては別にページを設けて深めたいと思いますが、初診日の証明ができなければ障害年金は出さない、というのは、まさにそのことの表われです。

障害年金というものは、障害を負ったために所得保障を必要としている人には、あまねくそれを支払うべきもの、福祉国家であるならば、これは当然のことではないでしょうか。そして次に、そのために、どのような政策を取るべきかを考えるべきでしょう。

ところが日本政府は、障害年金については、もっぱら「排除の理論」で対処しようとしています。

これだから駄目、あれがないから駄目、というわけです。「初診日」は、その口実の一つとして使われているわけです。

排除の理論は、当然まだまだありますが、私たちにとって、それらを実務的にも理論的にも跳ね返してゆくことが、大切な仕事の一つだと思います。

4.世界の障害年金はどうなっているのだろう

世界に目を向ければ、各国の年金にも障害年金があるはずですから、この点についてどういう規定の仕方をしているのか、ぜひ調べて参考にしたいところですが、日本国内の出版物を開いても、外国の障害年金の受給要件といった細部について書いたものはないようです。

この点について、たとえ1カ国についてでもいいのですが、ご存知の方あるいは調査の方法を教えていただける方がおられれば、ありがたいと思います。