介護保険雑感

平成10年から介護保険法が施行された。理念は崇高であるけれども今なお現場では混乱が続いているように思うし、また新たな問題もみえてきた。私の思うところを述べてみたい。

 

1 介護認定審査会 

利用者が急速に増えてきて、審査にあがってくる件数も増え一回の審査で扱う件数は限界にきている。医師ぬきでの審査でも可能というが、主治医意見書の解釈は医師しかできないし、医療を無視しての認定審査はすこぶるあやふやである。たんに膝が痛いとか、右手が不自由であるとかだけでなく、インスリンの自己注射をしている場合、利用者の視力がどれくらいあり自分で注射ができるかどうかという事が介護の手間を考える上で大きな問題となるし、狭心症の患者さんでは時によって非常に日常の行動を制限されることもある。また病名にはでていなくとも特殊な薬が投薬されている場合など要介護度に影響する重要な情報が主治医意見書に記載されている。医師ぬきの認定審査は不可能と考えるゆえんである。単に医師が不足しているからという理由で医師抜きの認定審査会をするというのであれば、医師会も医師の確保に協力すべきである。

 また要介護者の全身を知るという意味で、特殊な疾病を持っている場合を除いて、一般的には意見書は内科もしくは整形外科の医師が作成するのが望ましいと考える。介護認定審査会では直接本人をみて介護度を判定するのではなく、主治医の意見書と訪問調査の記載内容から書類判定するのである。私は開業医の先生の書かれた意見書は患者さんを想像するのに易く、良いものが多いように思う。

 

2 介護支援専門員実務研修

いわゆるケアマネージャーの研修である。世間ではケアマネージャー試験とよく言われているが、正確には介護支援専門員実務研修受講試験とよばれ試験に受かったからといってそのままケアマネージャーになれるわけではない。平成15年度では39時間の研修が義務づけられており、そのなかには一人一人実際の要介護者の方をアセスメントしてケアプランを立てる実習もふくまれる。私は縁あってこの研修の講師をしているが、医師会から講師として出ていただける先生が少ない事が気がかりである。介護というのは福祉系の仕事だと思われがちであるが、介護支援専門員実務研修を受ける人のおおよそ半分は介護福祉士でありもう半分は看護士である。病棟勤務の看護士さんもかなりいる。このことからも医師が実務研修を軽視すべきではないと思う。そして医師はこれまで福祉に携わってきた人達に病気に関する知識を教える必要と責任がある。医療職からみるとそんなことがと思うような基礎的なことを誤解しているケアマネージャーも多い。とくに症例のケアカンファレンスを行う際など医師の果たす役割は大きいのである。

 

3 医師とケアマネージャーの連携

 介護保険制度では医師もチームの一員として要介護者のケアにあたる事とされている。立場的にはケアマネージャーと同列なのであるが、実際は現場をリードしなければならない場合が多く、また医師の意見がケアプラン作成上不可欠となっている。介護保険に興味のない医師も多いと思うが、少なくとも在宅医療に取り組んでおられる先生方は介護保険に理解があると考えてよいと思う。ところが特に福祉系のケアマネージャーにはいわゆる病院の敷居が高いと感じる人が多いようである。そこで医師とケアマネージャーの連携について考えてみたい。私はとりあえずお互い顔を見せるという事がコミュニケーションの第一歩だと考えている。一度顔見知りになれば後の連絡は FAX や電話で可能である。また開業医の先生に電話する場合はできるだけ診療時間内にするよう実務研修で指導している。その理由として第1に診療時間内なら必ず医師はいるし、電話も普通の内容なら3分くらいで終わることが多い。第2に医師がカルテを参照したい場合でも事務員さんがすぐに出してくれるというメリットがある。込み入った内容で時間がかかるようならばその場でアポイントをとれば良いことである。悲しいかな開業医は3分間で頭を切り替える訓練は毎日やっているので、たとえ診療中に割り込んでこられてもケアマネージャーが考えるほど医師には負担にならないと思うのだが読者の先生方はどう思われるであろうか。