PET について     中堀克己

 

時は近未来の病院。一人の患者が検査台のうえに寝ている。天井からスキャナーとよばれる蛍光灯のような細長い装置が静かに降りてきて、患者の頭上で停止する。数秒後その装置は、患者の頭から足のほうになめらかに移動を開始する。隣の操作室では2人の医師と1人の技師がモニターをみつめている。先輩らしき医師がつぶやく。どうも全身に癌はないようだ。

このように全身を1度に調べられたらという夢のような話が現実になりつつあります。最近 PET (ペット)という言葉をきいたことがありませんか。陽電子放射断層装置を略して PET とよんでいます。最近注目されている新しい検査方法です。これは18− FDG という放射線医薬品をつかって体の中の癌などを見つける検査で、従来からある CT や MRI とはその原理がまったく異なります。 CT や MRI がいわゆる固まりとして目に見えるもの(占拠病変)を対象としているのに対し、 PET では活動性が周りと異なる部位を描出することができます。癌細胞は大量のブドウ糖を消費します。18− FDG はブドウ糖の類似物質であり体内に取り込まれると活発に活動している癌細胞に集積する性質をもっているため、 CT や MRI では見つけることのできない1cm未満の小さい癌病変をも見つけることができるのです。また CT や MRI で腫瘍がみつかっても悪性の病変かどうかわからない場合に、 PET でその活動性を調べることによって悪性度がわかることがあります。さらに PET では一度に全身の検査ができるというメリットもあります。もちろん PET ですべてのことがわかるという訳ではありませんが PET は大変有用な検査にちがいありません。現在のところ PET は設備がたいへん高価なため限られた施設でしか利用することができません。しかし2002年には保険適用となりましたし、安価な機械が普及すれば、いずれは人間ドックの一項目として広く利用されるようになると考えられています。