平成14年6月1日 国保中央病院地域医療検討会講演要旨

 在宅医療の現状について開業医の立場から述べさせて頂きます。在宅には往診と訪問診療があります。急な発熱とかで1−2回いく場合を往診と言います。寝たきりや痴呆などで症状がおちついている患者さんで、前もって計画的にスケジュールをたてて患家を訪問する場合を訪問診療と言います。これからは在宅医療のニーズは確実に増えると予想されています。その理由として厚労省の方針として社会的入院の解消という事をあげているからです。平成14年10月からは6ヶ月以上の長期入院の患者負担が増える特定療養費制度が施行されます。また病院側としては、国保中央病院のように急性期型病院をめざすか、介護重視の長期療養型の病院に進むかの選択がせまられています。
 先日の日医総研の調査結果によりますと療養型病床群の平均入院期間は1.9年で、半年以上の入院は65%、患者の病気では脳血管障害による寝たきりや痴呆が50%以上を占めるそうです。そして注目すべきは、退院の可能性を問うたところ、受け入れ態勢があれば40%が在宅での療養が可能とのことでした。
 また厚労省は特別養護老人ホームの施設基準の見直しを検討しています。いまは申し込み順に施設入所が行なわれていますが、これを見直して入所者を決める際の事項として介護の必要度や家族等の状況を勘案するということです。すなわち一人暮らしかどうかなどの生活状況や家庭環境なども考慮して入所順位を決めると言うのです。施設入所の場合待機者の増加が社会問題となってきており、これを受けて本当に入所の必要な人からはいって頂こうという配慮です。
 さて在宅医療は基本的には各職種によるチームケアです。平成12年に介護保険が始まってからは特にその傾向が強くなってきています。すなわちケアマネージャーとの連携、病院との連携、行政との連携、ケアマネージャーを介してのヘルパーとの連携などです。その中では医師がリーダーシップをとることが求められていますが、患者情報の一元化、共有化が必要であると考えます。
 では実際に訪問看護ステーションに依頼する内容と言うのはどういうものでしよう。私の診療所から依頼したのは、褥瘡の処置、在宅酸素患者のリハビリ、脳梗塞後の患者のリハビリ、胃瘻設置患者の管理、フットケア、入浴介助などです。お金の負担の問題だけではないのでしょうが、よく褥瘡の処置を訪問介護で行っている場合があります。私の経験では看護の知識を持った看護婦が計画的に処置する方が褥瘡の改善もよいようです。家族もふくめていわゆる素人の人は、清潔不潔の概念一つとっても、医学的常識では考えられないような事をする場合があります。看護の事は看護のプロに任せた方が良い場合が多いので、特に福祉系のケアマネージャーがケアプランを立てる際には医師からの助言が必要だとおもいます。そのためにも普段からケアマネージャーとコミニュケーションを図ること、ケアマネージャーを教育することが必要です。
 次に現時点での在宅医療の問題点をあげてみます。第1に入院の問題があります。老人はちょっとした事で症状が悪化する場合が多く、スムーズに病院に入院できるシステムが必要です。逆にある程度症状が良くなれば退院し在宅ですごすことで精神的なストレスを軽減できるため、在宅への移行も積極的に行なう必要があります。これは病診連携ということで、幸いにして国保病院と近隣4町の医師会は故松山前院長先生のご努力によりこれまで6年以上の病診連携の実績があります。
 第2に安易に施設入所を希望する家族がおられることです。本当に施設入所が必要な場合はそれで良いのですが、在宅でいけると判断した時には訪問看護によるリハビリテーション、デイサービス、ショートスティ等をくみいれて家族に理解をもとめます。本人が望んで施設を希望することは決してないということを頭に入れておくべきです。第3に在宅での看取りという事があります。病院で最後を迎えるか自宅で最後を迎えるかはどちらが良いとは一概にいえません。結局のところ患者と家族の希望をどのように尊重するかということだとおもいます。第4に24時間体制の問題があります。かかりつけの患者さんや末期の患者さんの場合、主治医にいつでも診てもらいたいと思っておられます。これに対応するため桜井地区医師会ではシステムとして24時間体制を構築しようとしておられます。しかし実際問題として主治医が緊急に往診しなければならない事態というのはそうありません。要は主治医と連絡がとれればよいのであって、電話で解決する事がほとんどです。そう考えればとりあえず今の体制でもやっていけるとおもいます。
 以上、在宅医療に関することをざっと述べさせていただきました。この後各職種の方々が、それぞれの立場から発言されることになっております。いろんな意見のなかから問題点を明確にし、それを一つ一つ解決していくことによって、患者さんにとってより良い在宅医療を提供できるよう本日の討論会に期待して私の担当を終わります。ご清聴ありがとうございました。