続プレゼント 栞の誕生日パーティ大作戦〜美坂香里誕生日記念SS〜

 

 プレゼント〜美坂栞誕生日記念SS〜からの続きになってます。このお話だけでも読め

ますが、出来ましたら、プレゼントの方を先にお読み下さい。

 

3/1(水)

 今日はお姉ちゃんの誕生日です。私の誕生日のときは、いろいろ驚かされたので、今度

はお姉ちゃんを驚かせようと思います。誕生日パーティだって、お姉ちゃんに内緒で準備

してるんですから。きっとお姉ちゃんは驚くはずです。

 

「栞ちゃん、そんなに香里を驚かせたいの?」

 パーティの準備を手伝ってもらってる、名雪さんが問いかけてきました。

 私の誕生日のときは、お姉ちゃんや祐一さんと一緒に私を驚かせてくれましたから、今

度は私に協力してもらう番です。

「はい。私も驚いたから、お姉ちゃんも驚いてくれないと不公平です」

「でも、香里は気付いてると思うよ?」

「大丈夫です。誕生日パーティのことは気付いてるかもしれませんけど、他にもお姉ちゃ

んを驚かす方法を考えてますから」

「う〜ん、香里が驚いたのって、あのジャムを食べたのときだけだと思うんだけど」

「お姉ちゃんが驚いたところを見たことがあるんですか?」

 私はお姉ちゃんが驚いたところを一度も見たことがありません。ちょっと名雪さんがう

らやましくて、問い返します。

「うん、香里がわたしの家に遊びに来たときに、お母さんのお気に入りのジャムを食べて

ね・・・」

「じゃあ、そのジャムを秋子さんから貰ったら、きっとお姉ちゃんは驚きますね」

 実は本当にお姉ちゃんを驚かせることが出来るか不安だったので、いい話を聞いたと思

いました。秋子さんの作った物はなんでも美味しいですけど、お姉ちゃんが驚くほどの

ジャムなら・・・

「栞ちゃん!」

名雪さんの声が、私の思考を停止させました。

「ダメだよ、そんなことしたら香里は一生口をきいてくれなくなるよ」

「どうしてですか?」

「とにかくダメなんだよ。出来るだけ協力するから、もうジャムのことは忘れようよ」

 いつにない真剣な名雪さんに押されて、ジャムのことは諦めました。ちょっと残念です。

 

 その後しばらく、お互い無言で準備を続けます。名雪さんの表情はなんとなく固くて、

気まずい雰囲気が流れてます。これはいけません。場を和ませないと・・・

「祐一さんは、ちゃんと時間までお姉ちゃんを引き止めてくれるでしょうか」

 当然祐一さんにもお姉ちゃんを驚かせる手伝いをお願いしてます。といっても料理は出

来ないと断言されてしまったので、準備が出来るまでお姉ちゃんの相手をしてくれるよう

頼んだんです。

「そういえば、祐一は香里と商店街に行くって言ったよ」

「祐一さんとのデートは商店街か噴水のある公園が定番ですから」

「そういえば北川君が『美坂の誕生日に、相沢が美坂とデートするのか!』と騒いでたよ」

「どうして北川さんが、そんなに騒ぐんでしょうか?」

「なんでなんだろうね?祐一はデートなんて一言も言ってないのに」

「そんなこと祐一さんが言ったら、嫌いになります」

「大丈夫だよ〜祐一は栞ちゃんが好きだから」

「そんなハッキリ言われたら、恥ずかしいです・・・」

 ちょっと恥ずかしかったですけど、場の雰囲気は和んだので良かったです。やっぱり楽

しいパーティの準備は楽しくやらないといけませんから。

 

 そんな楽しい雰囲気の中でパーティーの準備は完了しました。着替えに家に戻る名雪さ

んを見送って、私も自分の部屋に戻って着替えます。今日着るのは、当然お姉ちゃんが見

立ててくれた緑色のワンピースです。本当はお姉ちゃんの手編みのマフラーもしたいとこ

ろですが、部屋の中なので諦めました。

 そしてお姉ちゃんを驚かせる作戦を反復します。まずお姉ちゃんを玄関で迎えて、リビ

ングの変わり様を見てもらって、たくさんの料理を運んで、最後に手作りのケーキをロー

ソク付きで持って行ってたたみかける。名付けて「お姉ちゃんに考える暇を与えずに驚か

せます大作戦!!」です。

 

 パンパン!
 「ハッピーバースデーお姉ちゃん!」

 お姉ちゃんと祐一さんが帰ってきて、私と名雪さんはクラッカーでお出迎えします。

 「なんだ香里、今日誕生日だったのか」

 「相沢君、わざとらしいわよ・・・」

 う〜、お姉ちゃんは全然驚いてくれません。でもこれからです!

 リビングに入って、

 「ずいぶん飾り付けしたのね、後片付けが大変だわ」

 たくさんの料理を見て

 「あたしは相沢君じゃないから、こんなに食べられないわよ」

 手作りケーキを運んで
 「18本もローソクを立てなくてもいいのに」

 う〜、やっぱり全然驚いてくれません。

 でもお姉ちゃんがロウソクを消した後に・・・

「ありがとう、栞。こんなに一生懸命誕生日を祝ってくれて嬉しいわ。名雪も相沢君も栞

を手伝ってくれて、ありがとう」

 そういって微笑んでくれました。

 ・・・私はお姉ちゃんを驚かすことばかりを考えて、お姉ちゃんの誕生日を祝うことを

少し忘れてました。それなのにお姉ちゃんが喜んでくれてる。私はお姉ちゃんに申し訳な

い気持ちでいっぱいになりました。

「栞ちゃん、香里を驚かせようとしてたんだよ」

「栞がやりそうなことね」

「でも栞ちゃんは、自分が感じた気持ちを香里にも味わって欲しかったんだよ」

 えっ?名雪さん?

「そうね。本人が気づいてないけどね・・・」

 お姉ちゃん?
「何驚いたような顔してるのよ。自分が驚いてたら仕方ないじゃない」

「で、でも・・・」

「栞はあたしを驚かせることだけ考えて、誕生日パーティを準備したと思い込んでるかも

しれないけど・・・そもそも誕生日パーティを開こうとするのは、私の誕生日を祝ってく

れる気持ちがあるからでしょ。あたしはそんな気持ちが嬉しいのよ」

 お姉ちゃんが微笑みを浮かべて、私の顔をじっと見つめます。

「お姉ちゃん・・・」

 でもお姉ちゃんの微笑みがちょっと悪戯っぽい物に変わって、

「でも栞があたしを驚かせるのは十年早いわね」

「う〜、そんなこと言うお姉ちゃん、嫌い」

「お、栞の必殺技が出たな」

「そんなのじゃないです・・・」

 

 楽しかったパーティが終わり、私は自分の部屋に戻りました。

 パジャマに着替えながら、やっぱりお姉ちゃんには敵わないなぁと思います。でもいつ

か驚く顔を見てみたいです。

 私ホントは解ってました。多分お姉ちゃんが私の前で驚かないのは、私を不安にさせな

いためなんです。お姉ちゃんは私のために無理してるんです。

 お姉ちゃんが私に自然に接してくれるようするにはどうしたらいいか。その答えを今日

見付けました。私が早く大人になることです。お姉ちゃんみたいに、人の心をちゃんと理

解出来る様な大人に。

 来年の誕生日プレゼントはこれに決まりです。明日からは大人になれるよう頑張りま

す!!祐一さんにも手伝ってもらいますけどね。

 

栞の誕生日パーティ大作戦  完

 

 

あとがき

 

 ここまで読んでくれて、ありがとうございました。

 今回は香里の誕生日記念SSながら、栞が主役という矛盾した作品です。でもありきた

りの記念SSは書きたくなかったので、こういう形式になりました。

 香里の出番は少ないですが、彼女らしさは出せたと思います。いかがでしょうか?

 では最後に香里誕生日おめでとう!!
 

                              3/1 漱石タラちゃん

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