プレゼント〜美坂栞誕生日記念SS〜

2/1(火)

 前日は大変でした。秋子さんや名雪さんは、何人連れてきてもいいと言ってくれました

がそういう訳にもいきません。それに・・・彼氏の家に連れていくということだから、恥

ずかしいです・・・悩んだ末に2人の親友を呼ぶことにしました。

 2人とも快諾してくれましたが、取り敢えず私の家に来てくれるように言っただけです。

やっぱり恥ずかしいですから。

 大変と言えば祐一さんも大変な様子でした。この日の祐一さんは昼食を食べてるときに

名雪さんと二人仲よく居眠りしてましたから。ちょっと妬けちゃったのは秘密です。

 「こんにちは〜」

 「こんにちは」

 「栞〜、お友達が来たわよ〜」

 お母さんの呼ぶ声が聞こえます。

 「さあ、栞。これでOKだから、いってらっしゃい」

 お姉ちゃんに連れられて、あっという間に下校してきた私は、お姉ちゃんの口紅をうっ

すらとつけ、プレゼントに貰った緑のワンピースを着て、お姉ちゃんの手作りマフラーを

巻いています。何かいつもの私じゃない気がします。

 「ほら、お友達を待たしちゃ駄目よ」

 「お姉ちゃん、私変じゃない?」

 「何言ってるの。いつもより大人っぽくなってるわよ。自信を持ちなさい」

 「う、うん」

 そう言われても自信が持てなくて、おずおずと玄関に向かいました。

 「栞ちゃん、おめかししてるんだ。今日の栞ちゃんは、大人って感じで綺麗だね」

 と言ってくれるのは、高梨のり子さん。私が始業式に参加したとき初めて声を掛けた女

の子です。あれから学校へ来ることのなかった私のことを心配してくれて、一週間だけ学

校に通ったときも真っ先に声を掛けてくれました。

 「美坂さん、その服とマフラー似合ってますよ」

 天野美汐さん。初めは会話すらできなかったけど、何とかお友達になりたくて一生懸命

会話しようと努力した結果、いろいろあったけど親友になれました。

 「2人ともありがとう。えっと、実は会場はここじゃないんです。これから付いて来て

くれますか?」

 「えっ、どこに行くの?レストランかな?」

 「私は何処でもかまいません」

 割と活発なのり子ちゃんと大人びて冷静な天野さん。対照的な2人だけど、2人とも大

切な親友です。この2人なら、祐一さんに会わせても大丈夫と思います。

 「えっと、秘密です。それじゃ行きましょう」

 「秘密?気になるなぁ」

 「栞、楽しんでらっしゃい。あまり遅くならないようにね」

 「はい、行ってきます。お姉ちゃん」

 

 相沢さんの家に行く間、のり子ちゃんにはどこに行くかしつこく聞かれるし、それを見

て天野さんは微笑んでいました。私達3人はいつもこんな感じです。

 

 

 「着きました」

 「水瀬?親戚か何かなの?」

 表札を見たのり子ちゃんが不思議そうに聞いてきます。

 「えっと・・・ここは相沢さんが居候してる家なんです」

 恥ずかしかったけど、言わないと話がすすみません。

 「え?相沢さんって、栞ちゃんの彼氏だよね。彼氏の家で誕生会するの!?そっか、だ

から私と天野ちゃんしか誕生日会に呼ばなかったんだ」

 驚くのり子ちゃんとは対照的に、

 「美坂さん、私が参加してもいいのですか?」

 天野さんは招待した意味に気付いてくれたようです。

 「2人なら、相沢さんに逢ってもらってもいいと思ったんです。2人は私の親友だか

ら・・・」

 「栞ちゃん、泣かせること言ってくれるね。よし、親友として栞ちゃんの彼氏に相応し

いか鑑定してあげる」

 「嬉しいです」

 反応は対照的だけど、2人とも私を親友と思ってくれてるようです。ほんとにこの2人

に出会えて良かったと思います。

 「あっ、栞ちゃんいらっしゃい。もう準備できてるよ。お友達にも入ってもらって」

 名雪さんがドアから顔を出して、私達を迎え入れました。

 

 

 「はじめまして、わたしは水瀬名雪。祐一のいとこだよ」

 「水瀬秋子です。皆さんよろしくね」

 「はじめまして、高梨のり子です」

 「天野美汐です」

 それぞれ自己紹介した後、ダイニングに入ります。

 「あれ?」

 「栞ちゃんのお友達が来るからって、おめかししてるのよ。名雪、祐一さんを呼んでき

てくれる?」

 「うん解ったよ」

 祐一さんがいないのを不思議に思ったのですが、秋子さんに気づかれてしまいました。

 

 「お待たせ。いよいよ皆さんお待ちかねの祐一の登場だよ〜」

 しばらくして、おどけた名雪さんの後に祐一さんが来ました。

 「はじめまして、水瀬家に居候している相沢祐一です」

 「・・・」

 びっくりして声も出ませんでした。祐一さんはタキシードを着てたのです。

 「栞、やっぱり変か?」

 「い、いえ、全然変じゃありません。かっこいいです」

 いつもの祐一さんと違って、声が出なくなるくらいです。

 「ほら、祐一。栞ちゃんのことも見なきゃ駄目だよ」

 「・・・」

 「あ、あの?」

 「ほんとに栞か?香里が髪を切ったのかと思ったぞ」
 「・・・そんなこと言う人、嫌いです」

 「祐一、ひどいよ。こんなに綺麗なのに。栞ちゃん、気にすることないよ。祐一は照れ

てるだけだから」

 「よ、余計なこと言うな。名雪!」

 「さあ、パーティーを始めますよ。栞ちゃんは家でも御馳走があるから、今日はアイス

クリームをいろいろ用意したのよ」

 「嬉しいです」

 話が脱線して、パーティーがすぐには始まらないかと思ってましたが、さすがは秋子さ

んです。

 その後、私は秋子さんお手製のアイスクリームにうっとりし、のり子ちゃんが祐一さん

にどんどん質問をぶつけ、祐一さんが困ってしまって、名雪さんがそれをはやしたて、そ

んな様子を見て天野さんが笑い出す・・・といった楽しい一時を過ごしました。

 のり子ちゃんや天野さんが堅くなってしまうかなとも心配しましたが、秋子さんや名雪

さんの人柄のおかげで2人ともすっかり打ち解けていました。

 「そうだ、栞ちゃんにプレゼントがあるんだよ」

 もう遅くなりパーティーがお開きになろうとしたとき、名雪さんが紙袋を出してきまし
た。

 「楽しくて、プレゼント渡すのをすっかり忘れてたよ」

 「私も忘れてました」
 のり子ちゃんと天野さんもそれぞれプレゼントを私に渡してくれます。

 「開けてみていいですか?」

 名雪さんは手編みの手袋、のり子ちゃんはマーカーのセット、天野さんは全10巻の小

説本でした。

 「ありがとう、こんなにたくさんプレゼント貰ったの初めてだから嬉しいです」

 私はほんとに嬉しくて、涙ぐんでしまいました。
 「天野ちゃん、慌てて買ったプレゼントでこれだけ喜んでくれたら、嬉しいね」

 「はい、良かったですね」

 「そろそろ時間ね。お開きにしましょうか」

 秋子さんの一言で楽しかったひとときは終わりました。

 

 

 「じゃあ、高梨さん、天野さん、いつでも遊びに来てね」

 「いつでも歓迎するよ〜」

 「ありがとうございます、秋子さん、水瀬先輩」

 「ありがとうございます。・・・ところで美坂さんは?」

 「天野ちゃん、栞ちゃんは当然、彼氏の相沢先輩に送ってもらうんだよ」

 「そうでしたか。それじゃあ私達は・・・」

 「そうだね、おじゃま虫は退散しましょう」

 「では失礼します」

 2人は帰った後、私と祐一さんは顔を赤くしながら玄関に出ました。

 「じゃあ、俺達も行くか」

 「はい。お願いします」

 

 「栞、あの2人は本当の親友だな。いい親友に巡り合えて俺も安心だ」

 「はい、心配してくれてありがとうございます」

 そんな何げない会話をして雪の舞い始めた冬空の中を歩きます。今日祐一さんと2人で

居られるのはこの時だけ。なるべく一緒に居たくて噴水のある公園へ回り道します。

 そんな時祐一さんがふと立ち止まりました。

 「祐一さん、どうしたんですか?」

 「栞、実はプレゼントがあるんだ」

 「待ってました。誕生日を祝ってくれないかもと疑ってましたけど、プレゼントは渡し

てくれると信じてましたから」

 「そう思ったら、普通プレゼントはないと思わないか?」

 「祐一さんは去年もプレゼントをくれましたから、今年もくれるはずです」

 「そうか。じゃあ、これがプレゼントだ」

 そう言って、私に渡してくれた物は・・・

 「・・・もしかして、手編みですか?」

 「ああそうだ」

 「・・・覚えて・・・いてくれたんですね・・・」

 「ああ、でも香里と名雪に3/4は手伝ってもらったから、約束は守れなかったな」

 「そんなこと・・・ないです。1/4でも祐一さんの手編みなら・・・」

 「う、うぅ、えぅ〜」

 今度はこらえることができず泣き出してしまいました。

 「お、おい栞」

 「私幸せです。お父さんもお母さんも、お姉ちゃんも、名雪さんも秋子さんも、のり子

ちゃんも天野さんも、そして祐一さんもみんな私の誕生日を祝ってくれます」

 「そうだな。栞はたくさんの人に愛されてるんだな」

 「でも祐一さんに愛されているのが一番嬉しいです」

 「それなのに、祐一さんがデートしてくれないことに不満に思ったりして、私は悪い子

です」

 「そんなことないぞ。栞を不安な気持ちにしたのは俺のせいだ。お詫びにこれからは

いっぱいデートしような」

 「はい、嬉しいです」
 私はほんとに幸せです。言葉では言い表せないくらい・・・そんな気持ちを祐一さんに

伝えたくて・・・

 ちゅ・・・

 私は祐一さんに抱きつきキスしてしまいました。

 「栞がこんな大胆だったとは知らなかったぞ」

 「そんなこと言う人、嫌いですー」

 そう言って走り出しました。白地に緑のチェックが入ったストールを羽織って・・・

 

 

 「栞、お帰りなさい」

 「ただいま、お姉ちゃん」

 「相沢君もご苦労様」

 「じゃあ、俺はこれで帰る」

 「何言ってるの、相沢君。これから我が家の誕生日パーティーに参加してもらわないと」

 「今からは家族で祝うんじゃないのか?」

 「そうよ」

 「じゃあ・・・」

 「もう家族じゃない。祐一義兄ちゃん(笑)」

 

 

 プレゼント 完

 

 

 

 あとがき

 

 プレゼントを読んでくれてありがとうございます。

 初めは祐一、香里、名雪の手編みのプレゼントというコンセプトしかなかったのに、書

き始めたらいろいろな要素が入ってしまいました。

 とにかく栞が幸せな誕生日を迎えたことを感じてくれたら幸いです。

  

 

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