北川の証言から栞を探しに商店街に向かったが、そこで真琴と天野に遭遇して危うく

復讐されそうになった。

 幸い天野の提案で見逃される。その提案とは公園に向かうこと。誰かがそこにいるそ

うだ。

 真琴が復讐しに来た裏には、栞か香里が背後にいるらしい。どちらが黒幕でも、俺に

とっては辛いことだ。出来れば天野の話が嘘であって欲しい・・・

 

 

 呪いのぬいぐるみ 第6話

 

 

 天野と別れた後、俺は栞とよくデートする公園を目指した。約束を破って他の場所に

行こうとすれば、おそらく天野は再び真琴を俺の元に差し向けるだろう。そうなれば栞

を探すどころじゃなくなる。

 そして栞と初めて出会った街路樹のある道に差しかかったとき、木の影から俺の背後

に飛びかかってくる人影が・・・

「うぐぅ、祐一君が避けた!」

 道にスライディングしたあゆが抗議の声をあげる。あゆとも久しぶりの再会だか、そ

れどころじゃない。

「あゆ、俺は今狙われてるんだ。紛らわしいことをするな」

「紛らわしくないもんっ!ボク、祐一君を狙ってるんだよっ!」

「そんなこと、堂々と言うな!」

「うぐぅ、仕方ないんだよ・・・祐一君を倒さないと恩返しできないもん」

「そうか、あゆは誰かに頼まれて俺を狙ったんだな。誰に頼まれた?」

「そ、それは言えないよ」

「言わなくても解るぞ、名雪だな。名雪が俺と栞が付き合っているのに嫉妬して、あゆ

に頼んだんだな」

「ち、違うよっ!名雪さんはそんな悪い人じゃないよっ!悪いのは名雪さんの友達

の・・・」

 そこまで言いかけて、慌てて口をふさぐあゆ。

「そうか、やっぱり香里か」

「ち、違うよっ!香里さんは悪い人じゃないよっ!香里さんはボクが買ったたい焼の代

金を払ってくれたもんっ!」

「そうか、それで香里に頼まれて俺を狙ったのか」

「うぐぅ」

 誘導尋問とも言えない会話だが、あゆはあっさり喋ってくれた。

「いろいろ教えてくれてありがとな、あゆ。じゃあ、俺は用事があるから」

「待って、祐一君」

「もう俺はあゆに用がないぞ」

「うぐぅ、ボクは用があるもん」

「あゆに俺は倒せないぞ」

「それは諦めたよ。でも祐一君に伝えなきゃいけないことがあるんだよ」

「言ってみろ」

「今から学校に行って欲しいんだよ」

「嫌だ」

「うぐぅ〜祐一君、意地悪だよ」

「学校へ行けと言うのも、香里の指示だろ。今まで指示に従ったら、行く先で刺客が

待っていたんだ。きっと学校にも刺客がいるから行かない」

「刺客って何?」

「あゆみたいに、俺を襲おうとする奴のことだ」

「うぐぅ〜ボク、本当は祐一君を襲いたくなかったよ」

「解ってる。でも学校には行かないぞ」

「お願いだよ、学校へ行ってよ」

 あゆが涙目になって体を震わせ、俺にすがりついてくる。

「あゆ?」

「祐一君が学校へ行ってくれなかったら、ボク、ボク・・・」

 そのまま、あゆは泣き出してしまった。

「おい、あゆ・・・」

 泣かれてしまっては、どうにもならない。これも香里の作戦かもしれないが、覚悟を

決める。

「解った、ちゃんと学校へ行くから泣くな」

「本当?」

「ああ、本当だ」

「よかった・・・これでボクも安心だよ」

「一体どうしたんだ?」

「それは言えないよ。言ったら祐一君に迷惑がかかるからね。それよりも気を付けて、

学校に行くんだよ」

「おう、じゃあな、あゆ」

 泣いた理由を聞きたい気もしたが、また泣かれると困るので聞かない。

「祐一君・・・また会おうね、約束だよっ!」

 あゆが大袈裟に手を振るのを背にして、俺は学校へ足を向けた。

 

 

 学校へ到着すると、意外な人物が俺を待っていた。

「あははーっ、祐一さん、お久しぶりですっー」

「佐祐理さん、どうしてここに?なんで制服を着てるんです?」

「舞に呼び出されたんですよ。祐一さんも来るからって。制服はこの方が目立たないか

らって、舞が言ってました。さあ行きましょう」

 二人とも有名人だったから多分制服姿でも目立つと思うが、それは言わないでおく。

 そんなことを考えてるうちに、佐祐理さんに手を引かれて、学校の中へ。

 そして階段を上がり、屋上の踊り場に着く。

「あれ?舞がいないな」

「舞なら屋上ですよ」

「佐祐理さん達と御弁当を食べたのはここだったから、てっきりここにいると思った」

「舞と祐一さんと三人で御弁当を食べたのは冬でしたから、屋上には行きませんでした

ね。でもこんな季節には舞と二人、屋上で食べていたんですよ」

「そうなんだ」

「景色が良くて、風も気持ちいいです。さあ行きましょう」

 佐祐理さんが屋上のドアを開け、俺もその後に続く。そこに舞がいたが、竹刀を持っ

ていて様子がおかしい。

「祐一・・・」

「ちょっと待て、舞」

 こくん。

「取り敢えず久しぶり」

「・・・久しぶり」
 挨拶をしてから、本題を切り出す。
「まさかとは思うが、舞も香里に何か弱みを握られて俺を狙っているのか?」

「弱みなんか握られてない。一食の恩があるだけ・・・」

「一食の恩?」

「夜の学校で、香里に会ってパンをもらった」

「お腹がすいてたから、助かった」

「そのパン、まさか・・・賞味期限をサインペンで消してたか?」

「そんな気がする・・・でも変わった味で美味しかった」

「変わった味って・・・」

 舞といい、名雪といい、なんでそんなパンを食べるんだ。それにしてもそんなパンを

食べさせて、恩義まで感じさせる香里って・・・

「・・・恩返し。祐一に恨みはないけど、覚悟して」

 竹刀をこちらに向ける舞。舞に狙われたら、おそらく一分と持たない。ここは佐祐理

さんに助けてもらおうと、何故かドアの前にいた彼女に声を掛ける。

「佐祐理さん、舞を説得してください」

「・・・」

「祐一さん、佐祐理からもお願いです。舞に恩返しさせて下さい」

「えっ!?」

 俺は固まってしまった。

「舞が祐一さんと佐祐理以外の人から恩を受けるなんて、嫌ですっー。でも受けてし

まった恩は仕方ないですから・・・」

「そんな・・・」

「これからは他人から恩を受けないように、舞によく言い聞かせます。今回だけですか

ら、辛抱してください」
 ど、どうする、絶体絶命だ。自力で逃げるしか・・・周りを見舞わす俺だが・・・

「祐一は高所恐怖症。逃げ場所はない」

「ど、どうして、それを知ってる!?」

「香里から聞いた。ここに祐一を呼べばいいって」

「ま、負けた・・・」

 俺はがっくりと膝を落した。香里の包囲網がここまでの物とは思わなかった。

「祐一、負けを認めたなら自分の家に帰って」

「ああ解った」

 俺は立ち上がって、ドアへ向かう。

「祐一、さよなら」

「祐一さん、また逢いましょう」

 舞は無表情に、佐祐理さんがにこやかに告げる。多分二人とも俺の運命を知らないの

だろう・・・

 

 

「祐一〜」

 学校から出ようとしたとき、いとこの声が聞こえた。

「名雪、今から帰りか?」

「うん。ちょうど部活が終わったときに、祐一も学校から帰るところだって、北川君か

ら聞いて急いで来たよ」

「そうか」

 返事しながら、北川も香里の指示で動いていたことに、今さらながら気付く。あゆや

名雪は携帯電話を持ってないから、北川が直接香里の言葉を伝えたのだろう。

「ねぇ、祐一」

「何だ?」

「学校にいるのになんで私服なの?」

「話すと長くなるから、言いたくない」

「う〜」

「それより名雪、北川は他に何か言ってなかったか?」

「言ってたよ。香里が私の家で待ってるから、急いで行ってくれって」

 なるほど、名雪は知らないうちに、俺を護送する役を担っている訳だ。

「じゃあ寄り道しないで、帰らないとな」

「うん」

 俺と帰るのが楽しそうな名雪。そんな名雪を見て、俺は気が重くなるのだった。

 

 

「お帰りなさい」

 俺たちを迎えたのは秋子さんでなく、香里だった。

「あれ?お母さんはどうしたの?」

「出掛けるから、留守をお願いと言われたわ」

「そうなんだ。ところで香里、何の用なの?」

「後で話すわ。先に相沢君に用事があるのよ」

「またパソコンのこと?」

「そうよ。じゃあ相沢君を借りるわね」

「うん、頑張ってね〜」

 俺は香里に手を引かれて、自分の部屋に向かった。

 

「さあ、栞を泣かせた報いを受けてもらうわ」

 香里が正気を取り戻していることに希望を託していたが、あっさり打ち砕かれる。

「一つ質問させてくれ。北川や真琴、あゆ、舞を使ったのは作戦だったのか?」

「想像におまかせするわ。ただ、わたしから逃げることは不可能なのは確かね」

「名雪が隣にいるんだぞ」

「すぐに眠ってしまうような顔をしてたわ。もうぐっずり寝てるはずよ」

「じきに秋子さんが帰ってくるぞ」

「時間を稼ごうとしても駄目よ。今から始めればすぐに終わるわ」

「どうするつもりだ」
「相沢が栞のことを忘れるように、処置するのよ」

 俺の方に歩み寄る香里、その左手にはメリケンサックが・・・

「怖がることないわ。栞のことを忘れても、相沢には名雪や他の女の子がいるじゃない」

「うあぁぁぁぁぁ」

 バン!!

 

 

 第6話完

 

 

☆あとがき
 漱石タラちゃんです。

 あゆと舞、佐祐理さんが初出です。前の北川、真琴、天野と合わせて、香里の意図で

祐一を追い詰めたことになります。

 ちなみに北川が香里からの電話を受け、指示を伝えたと考えられます。でも携帯を

持っていそうな人があまりいませんね。佐祐理さんが持っていて、舞にも持たせている

可能性がある程度で。後は北川が直接指示を伝えに言ったのでしょう。ご苦労様です。

 さて祐一はどうなったか、すっかり忘れられた栞は登場するのか?最終話をお楽しみ

に。

 

 

 第5話に戻る

 最終話へ

 SSへ戻る